♪10 ウィーンオペラ座

オペラも大好きな私は、
オペラ座にも、よく通った。

ウィーンのホールには、

学生に優しい“立見席“というのがある。
オペラ座は、500円くらいだったと思う。

1番良い席のお値段は、

約3万円であったことを考えると、
これは、本当にありがたかった。

ここで聞いたオペラ、
とりわけ、その歌手たちの息遣いは、
今でもはっきりと覚えている。

1番思い出に残っているのは、
「フィガロの結婚」のケルビーノ。

彼女はその日、

ウィーンオペラ座初デビューを迎えていた。

有名なアリア「恋とはどんなものかしら」を

歌い出した時、
彼女の緊張は、ピークに達したと思われる。

その透き通る美しい声が、

心なしか震える・・

世界屈指のオペラ座で、

世界屈指の聴衆を前に1人きりで歌うのだ。
震えない方がおかしい。

しかし、そんな彼女の、

極限ぎりぎりの思いが、

聴衆の胸を打った。
彼女の一呼吸一呼吸を、

皆が、かたずを飲んで見守り、
5階席まであるオペラ座が、

一つになった。

そして終わるや否や、

ブラボーの嵐と、割れるような拍手。
鳴り止まなかった・・

今、思い出しても、

涙が出る・・

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